2018年12月19日

選手とともに戦う
順天堂大学駅伝チーム
長門俊介監督インタビュー

歴史ある駅伝大会で何度も優勝を経験してきた順天堂大学駅伝チーム。これまで世界で活躍する選手を輩出したいわゆる名門ですが、現在このチームを率いるのは、かつて自身も同じユニホームを着て活躍した長門俊介監督。34歳(2018年11月時点)と、監督としては“若い”世代ですが、どのようなチーム作りをしているのでしょうか。

選手との近い距離でのコミュニケーション

順天堂大学駅伝チームには現在何名の選手が在籍しているのですか。

当大学駅伝チームには65名の選手が在籍し、その中から約30名を「強化対象選手」として選出しています。強化対象選手とそれ以外の選手の2グループがあるわけですが、僕は前者の指導を行っています。

指導者として、彼らに対して心掛けていることはありますか。

僕は他チームの監督と比べると若い方ですが、それゆえに「選手との距離の近さ」が強みと考えています。これを活かさない手はない。できるだけ学生目線で接するようにしています。「今の学生たちは普段どういうことを考えているのか」「どういうものに興味があるのか」などにも関心を持ちつつ、プライベートなことまで話せるようなコミュニケーションを積極的に取っています。

具体的にはどのようなコミュニケーションになるのでしょう。

人数が多いので、一人ひとりとコミュニケーションを取るのは難しい。その中で、選手の趣味を交えてコミュニケーションをとるようにしています。

程良い距離感を保っているわけですね。選手たちを指導する際に、叱ったり褒めたりすることもあると思いますが、ご自身ではどちらが多いと思いますか。

褒めることの方が多いと思います。褒め方も、選手の性格やタイプ、ときと場合によって大げさに、あるいはさりげなくなど使い分けています。厳しく叱ることはあまりないです。注意から始まって、直らないとキツく言うこともありますが。それでも僕の中では、結構優しくしているつもりです。叱るというよりは、「何がしたいのか」「どうなりたいのか」と、問いかける接し方が近いかもしれません。

選手に対して何か禁止にしていることはありますか。例えば「恋愛」とか...。

僕の時代もそうでしたが、恋愛は自由。実業団に入りたい、日本代表に入りたいという高い目標が各々にあり頑張れるのであれば、もう一つの目標として趣味や恋愛など好きなことを挙げてもいいのではないでしょうか。

今とかつての学生の違い

今の時代の学生と、監督の時代の学生との違いを感じることはありますか。

以前は、指導者に大事な練習は見てほしいが、ジョギング程度の練習はわざわざ見てほしくないと思っていました。それに対し今の学生は、常にスタッフたちにグラウンドにいてほしいと思っている選手が多い気がします。

技術面や努力面での違いはありますか。

順天堂大学(以下、順大)について言うと、昔は、高校時代から有力な選手が集まっていて才能のある選手が多く、彼らはセンスで走っていました。今これだけ大学駅伝が盛り上がっている中で強いチームや魅力的な学校が増え、力のある選手がいろいろな大学に分散されるようになりました。順大は高校時代から実績のある選手ばかりではなくなったので、その時代に比べると努力型の選手が多くなっていると思います。

伸びる選手の見極め方

伸びる選手の共通点はどのようなところにあると思いますか。

大きく分けて2つあると思います。まず、駅伝に向けたさまざまな練習方法やメニューがある中で、一つひとつの練習やスケジュールに対して「何のためにこの練習をしているのか」をしっかりと考えられる選手。もう1つは自分の弱点、弱さをきちんと理解して、そこを強化することを考えられる選手です。普段あまり学業成績が良くなくても、自分の競技種目にしっかりと向き合える選手は伸びるでしょう。順大の特色でもありますが、考えさせながら練習に取り組ませています。「なぜこういう練習をするのか」を常に説明していますが、大事なのは理解し、日々取り組めるかだと思います。

強化対象選手は、どのように決めていますか。

記録である程度、線引きしています。記録を出して強化対象選手のグループに入る選手もいますが、高いレベルの練習をさせる中でオーバーワークになってしまい記録が伸びない選手も出てきます。その場合はその選手にあったレベルを考えたグループに配置し、競技力向上を目指させたりしています。

強化対象選手グループでは、冬の駅伝で走るメンバーに選ばれるための争いがあると思いますが、どのように競わせていますか。

夏合宿には20数名を連れて行き、いろいろな練習の中で見極めます。本人が希望する区間もありますが、駅伝シーズンに入るとコースの適正に合わせたメンバーを選出していきます。入部したばかりの1年生が「将来、エース区間を走ります」「駅伝で区間賞をめざします」と宣言することはありますが、現実的には駅伝1カ月前くらいから自分が狙えそうなところに照準を合わせてシフトしていきます。本当に強いチームというのは、「俺がエース区間を走るんだ」「あいつの区間を奪ってやるんだ」というチーム内の争いが多いと思います。お互いに切磋琢磨するチームになったら面白いし、そういうチームを目指していきたいです。

伸び悩む選手へのアプローチ

自分の弱点が理解できていない選手にはどのような指導をしていますか。

下級生にはできるだけ細かい技術的な指導を行っていきます。上級生になると自分である程度考えられるようになりますが、不調に陥ったときには、技術面での指導をして選手自身の走りの感覚が悪くなっている部分を指摘します。

強化対象選手グループから外れてしまうこともあるわけですよね。そうした選手へはどのように指導や対応などをされていますか。

記録が出なかったら外れてしまいます。記録が出なくなるのも、ケガの場合を除けば必ず理由があると思います。結果が出ないことについて練習の方法や私生活について指導をすることもあります。冬の駅伝はプロと同じような世界。本気で出場を目指したい選手は行動に表れると思います。

駅伝選手だった経験をもとに指導

監督自身が選手だった経験から、指導で実践していること、やらないと決めていることはありますか。

僕は大学1年からレギュラーメンバーでしたが、他の指導者に比べると、国際大会の出場など選手としての競技実績はありません。トレーニング方法については「自分はこれをやったから強くなった」という固定概念はありません。自分自身の競技力が伸びなかった理由は何だろうと振り返って、「これをやっておけば良かった」という後悔している部分を伝えたり、実際にやらせたりしていることの方が多いかもしれません。

生活面においてはいかがでしょうか。

オンとオフの切り替えについては、よく話しています。「常に競技のことを考えています」というストイックな選手も中にはいますが、抜くところは抜く、つまりメリハリのある選手の方が、ここぞというときに思いがけない力を発揮したりします。

「監督」というプレッシャー

「監督」としてのプレッシャーは感じますか。

選手時代はプレッシャーを感じることはほとんどなかったので、プレッシャーには強い方だと思っていました。しかし、伝統校の監督となると、十人十色である選手全員の調子を上げなければならないので選手時代とは違う緊張感があり、責任の重みを感じます。

監督をやっていて良かったと思うことは。

人付き合いは好きな方。いろいろな学生や関係者に出会って刺激を受けることも多く、成長させてもらっている実感があります。このような緊張感のある仕事は、なかなかない。プレッシャーや責任も楽しむくらいの心持ちで乗り切っていきたい。

駅伝に出場する選手を決めるとき

大会前、監督として出場選手を決める必要があるかと思いますが、どのような思いや決断がありますか。

メンバーを決めるとき、特にどちらかを外さないといけないとなったときは非常に悩みます。ただ、悩むくらい選手たちが力を付けてくれているときは、それは選手たちの努力の証なので「みんなが頑張ったから」と感謝を伝えてメンバーを発表するようにしています。

10人の走者を決める基準はどのようなものですか。

各区間の特徴に合わせて選手を選びます。選手自身が練習の段階で「自分はこの区間だろうな」というのはある程度分かってくる。正直、8名くらいは早いうちに自分がどこを走るかは予測できていると思います。

各選手が自分の特性を理解し、そのための練習をしていくわけですね。

選手の得意不得意で、登りが得意な選手には登りを、競り合いに強い選手は往路に、一人で淡々と走れる選手は復路の方にと振り分けていきます。長丁場の闘いなので、日々コースをイメージして練習に取り組んでほしい。早めに知った方が準備もしやすいと思います。

選手側から「この区を走りたい」といった逆オファーはありますか。

あります。でも断るときもありますよ。向いてないって(笑)。

長門監督の中で、オーダーの構想や理想、イメージはいつ頃からお持ちですか。

冬の駅伝に向けては、大会が終わった時点で次の年の構想を考え始めます。練習を見ながら「あの選手は登りに向いていそうだ」とか「この選手にこの区間は厳しそう」と年中考え続け、夏合宿が明けたころに、理想のオーダーが頭に浮かびます。冬の駅伝に近付くに連れて多少の変動はありますが、理想のオーダーに近付いたときはある程度良い結果が出ると思います。

最後に、長門監督にとって「監督」とはずばり何でしょうか。

僕は中学3年生で駅伝と出会ってから、ずっと「走ること」を続けてきた。高校も大学も就職も、駅伝なしでは語れないほど、駅伝が自分を育ててくれたと思っています。それに対して自分がどう恩返ししていけるかを考えたときに、選手の育成や世界に羽ばたく選手を輩出することはもちろん目標の一つですが、それ以前に駅伝の勝負なのです。駅伝を通じて形成されていく人生観だったり、冬の駅伝の優勝経験から得た変化や成長、喜びなどを、今の学生たちにも味わってほしい。そう思いながら、指導しています。

ありがとうございました。

<プロフィール>

長門俊介監督/1984年、長崎県出身。順天堂大学スポーツ健康科学部教員。

長崎県・諫早高校を経て順天堂大学に入学。1年次からレギュラーメンバーに選ばれ、「東京箱根間往復大学駅伝競走」では、第80回大会から83回大会まで4年連続で第9区を走る。卒業後はJR東日本に所属。2011年、順天堂大学駅伝チームのコーチに就任し、2016年から監督としてチームを率いている。


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