コラム一覧へ

2019年05月21日

元陸上日本代表・園原健弘がマラソンで意識するコンディショニングは?

世界を舞台に活躍し続ける、元陸上日本代表選手の園原健弘さん。30000メートル競歩及び2時間競歩の日本記録保持者であり、いまだにその記録は破られていません(2019年4月現在)。そんな園原さんが注意喚起を促すのは、近年増え続けている市民ランナーによる「コンディショニング」。街中では趣味でマラソンや駅伝などを楽しむ人々をよく見かけますが、調整不足によりレースで怪我をする人も多いそう。市民ランナーはどんな準備をしてレースに臨むべきなのでしょうか。お話を伺いました。

レース以前に大事な「マインドセット」

市民ランナーがもっとも意識すべきコンディショニング※はどんなことでしょうか?

そもそもですが、何のためにマラソンをしているのかを見直すことが大事です。ほとんどの市民ランナーの方が本業の仕事がある中で、その本業に精を出すために合間を縫って取り組んでいるかと思いますが、即ちそれは、ランニングをすること自体がコンディショニングになっているわけです。しかし、2007年に東京マラソンが初開催されて以降、特にここ数年で市民ランナーが増えたことも一つ起因していますが、全体的に競争意識が高まり、記録を狙って過度なチャレンジをし、結果的にストレスを溜め込む人も少なくありません。中には怪我してしまう人もいます。今一度、マラソンを取り組んでいる理由や目的をしっかりと見直すこと。これを「マインドセット」といいます。

※コンディショニング=いいコンディションを維持すること

普段から簡単にできるストレッチを

普段から取り入れた方が良いストレッチはありますか?

市民ランナーの方々はプロのアスリートのようなことはできないので、仕事の合間でできる簡単なストレッチ方法を取り入れていくことをおすすめします。特に、呼吸に関連する背中や胸、肋骨をやわらかくすることを意識し、5秒の背伸びを1 日10回、毎日やっていきましょう。それと、ふくらはぎを動かして伸ばす動き。足の血行を良くすることで体全体の血の流れが良くなっていきます。「低回数、高頻度」のストレッチが効果的と言われていますが、それ以上は、それぞれの人のライフスタイルに合わせたアプローチをしていくことで、本来の目的に近づいていきます。

普段から気を付ける食事と睡眠は?

食事については普段からどんなことを意識すべきでしょうか。

マラソンに使う主なエネルギーは炭水化物です。レースの3日前くらいから炭水化物をいっぱい摂りましょう。実際にマラソンによって使われるカロリーは、走った速度にもよりますが、体重×走った距離なので、例として60(キログラム=体重)×40(キロメートル=距離)=2400キロカロリーとなります。対して、炭水化物を1キログラム摂っても、体の中にグリコーゲンは300グラムしか蓄えられません。300グラムのグリコーゲンは、1グラムあたりのカロリーが4キロカロリーなので計1200キロカロリー。つまり、これでも1200キロカロリー足りない計算になります。足りないカロリーは脂肪から燃焼されていくのです。

睡眠についてはどんなことに注意すべきでしょうか。

運動神経は、浅い眠りである「レム睡眠」によって発達すると言われており、もちろんたくさん寝た方が健康的です。しかし、年齢が高くなると、脳を発達させる必要がなくなるのでトータルの睡眠時間が減ってきます。50〜60代の人の場合、8時間も寝なくても大丈夫です。眠れないということは、交感神経と副交感神経のバランスがうまくいっておらず、自律神経の不調、つまりストレスにつながります。副交感神経が優位でないと、毛細血管が広がらず、酸素や栄養分の受け渡しができない状態になるので疲労は回復しません。普段から嫌なことがあってもあまり思い詰めず「呑気」に過ごせると良いです。あまり眠れない人は、1分間に4回の深い深呼吸をしていきましょう。その際、吸うより吐く方を意識します。実は副交感神経を良くする唯一の方法が深呼吸なのです。酸素が取り込めないと、脂肪も燃えていきません。また、身体のバランスを整えるためにスキンズを着用して寝ることもおすすめです。

レース一週間前 状況の把握

レース本番一週間前にはどんなことをする必要がありますか?

自分が立てた目標を見直し、自分の今の「状況」を把握していきます。例えば、フルマラソンのレースに出場予定で4時間を切ることを目標に練習を頑張ってきたけど、本番1〜2週間前になって本業が忙しくて練習ができなかったというケース。「4時間切ると決めたから」といって無理な挑戦をすると体に負担が掛かり、怪我にもつながりやすいです。目標にこだわるのではなく、体調面、心の状態、仕事環境、気象条件など、今の自分の状況を基点に目標を見直します。自分の状況に合わせて目標値を修正しながらスタートに臨んだ方が、意外と当初の目標を達成できたなんてことも私の経験上ですがあります。

状況を把握するために、何か基準や指標になるものはありますか?

「よく眠れているか」「よく食べられているか」の2点です。仮に、眠れないという場合は体が疲れている証拠。精神的にもストレスを感じている可能性があります。食事面についても同様で、日常通りの食事をきちんと食べられているかが大事になり、レース前だからといって今までと違うことを取り入れても効果は発揮されません。これ以外にも、体重チェックや体温チェックなど細かいことを挙げればたくさんありますが、この2つをコンディショニングの大きな指標と捉えておかないと、なかなか管理できません。市民ランナーとしてできる範囲でチェックできれば問題ありません。

トレーニングやコンディショニングにおいては、体のどの分を意識して取り組んだ方が良いでしょうか?

マラソンは全身運動ですが、思ったほど全身運動になっていない人が多く、使うべき身体の部分を使っていないことが実は多いです。というのも、マラソン、もっと言えばスポーツを距離や時間、歩数など「量」でしか測っていない人が多く、そうすると動きの質がどうでもいいとなってしまいがちで、バランスが大事なのです。人によって動きは異なりますが、どの筋肉を使ったら良いのだろうと考えることがまず大事。そのうえで、股関節まわりをうまく使えるように意識したり、アキレス腱のバネを意識して動かしていくと良いでしょう。さらに、サポート系のトレーニングウェアであるスキンズを使うことで、本来動かすべき部分をより動かせたりすることもできます。

レース前日は特別なことはしない

レース前日にすべきことはありますか?

先ほど「よく眠れているか」という話をしましたが、当日はそこまで眠れていなくても大きくパフォーマンスに違いは生じません。4時間くらい眠っていれば十分です。ただ、その一週間前くらいから不眠状態が続くとか、仕事が忙しくて眠れないという場合はコンディショニング以前の問題です。コンディショニングという意味では、能力以上の力は出さなくて良いわけで、自分の持っている力を100パーセント近く出せるような状態を作ってあげることが目的になります。トップレベルで闘うマラソンランナーの場合は、基本的には7〜8割くらいの力が出せれば目標値に到達すると思って日常から練習に励んでいますが、市民ランナーの多くは、100ある力の中で120出そうと考えてしまっています。そうなると「気合いだ」というような精神論になるわけで、それに引っ張られると、怪我、低血糖症、脱水症状などにもつながりやすくなります。どう努力しても100の力は絶対に120にはなりません。最後のコンディショニングに失敗すると50しか出ない可能性もあるので注意が必要です。

レース本番 ペース配分だけを意識

レース本番中は、どんなことを意識した方が良いですか?

ペース配分だけを考えて、身体的なことについては何も意識しないことが一番です。フォームなど動きに関していえば、意識した時点で筋肉の使い方が悪くなってしまい、疲労につながりやすいです。普段からしつけるという感覚が大事です。それを前提にペース配分を考えていくのですが、完走を目指している人の場合、「2つの我慢」を頭の中に入れておくと良いでしょう。前半のオーバーペースにならないための我慢と、後半の苦しくなってきたときの我慢です。マラソンで一番やってはいけないのがオーバーペース。前半に飛ばし過ぎると後半は失速するだけ。最初の5キロは予定よりも遅いくらいの気持ちで臨んだ方が良いです。それと、フルマラソンの場合、30キロ以降で必ず苦しい局面を迎えます。苦しいあまり息が吐けなくなると、息が吸えなくなり余計に苦しくなります。その際はペースを落としても良いので、ため息を吐くような感じで息を吐き出してあげると良いです。このようにして我慢をして走ってもタイムはそこまで落ちません。苦しい局面がきたら「きたきた、ここからがマラソンだ」と思うことです。経験者の場合、自分の5キロごとのラップを見てレースを振り返ると尚良しです。

身体的なことについては何も意識しない。

先ほどもお話しましたが、マラソンは全身運動ですが、使うべき身体の部分を使っていない人がほとんどです。マラソンでは股関節よりも足先などが動きがちですが、身体を動かすという意味では、本来なら股関節を動かすべき。そこで、スキンズを着用してレースに参加することで、本来動く部分を動かせたり、全体の身体のバランスをサポートしてくれます。スキンズは、使うべき筋肉へのアプローチをしてくれるのです。レース中、変に筋肉を意識するよりはスキンズを着用し、身体的なことは意識せず、ペースだけを考えてレースに臨んでいくのも一つの手段です。

レース中の水分補給は何に気を付けるべきですか?

市民ランナーの場合、よくテレビでも見かける糖濃度の低いスペシャルドリンクはなかなか作れませんので、主催者が出してくれるスポーツドリンクと水の両方を飲むと良いでしょう。糖濃度のベストは2.9パーセントくらいですが、スポーツドリンクはものによってはかなり高い糖濃度の飲み物があり、甘いものを運動中に突然摂取すると、人によってはインシュリンショックが起き、血糖値が一気に上がって倒れてしまうこともあるので注意が必要です。

レース後 栄養補給を第一に

レース後は、どんなケアをすべきでしょうか。

身体を整えるという意味では栄養補給が重要です。運動によって肝臓が相当ダメージを受けているので、打ち上げでお酒を飲むのも良いですが、グリコーゲンが枯渇しているため先に炭水化物を摂った方が良いです。あとは日本人が欠乏気味と言われているたんぱく質。フィジカルな部分については、レース後は足が痛くてケアができないと思いますが、筋肉が炎症を起こしているので、熱いお風呂に入るよりは、クールダウンの意味を含めて冷やした方が良いです。無理に熱いお風呂に入って血流を良くすることで、損傷部位が広がってしまいます。

レース翌日にすべきケアはありますか?

わざわざ走らなくても良いですが動いた方が良いです。休息が大事と思われがちですが、実は休んでいても疲労回復が早いわけではないんです。それと、足に乳酸が溜まっていると思いますが、除去するもっとも良い方法は、乳酸を発生させた低負荷版の運動をすること。レースの翌日は、談笑しながらのジョギングや散歩、ウォーキングなど軽めの運動で全然構いません。その際、スキンズを着用することでより身体のバランスを整えてくれます。

日常の過ごし方が実はとても重要

日常生活の中では、どんなコンディショニングを取り入れるべきですか?

コンディショニングはレース直前ではなく、日常生活の過ごし方が大事なんです。プロや実業団の選手は、練習のための時間を多く確保できますが、市民ランナーの場合は日常生活の中で練習もレースをこなしていかないといけません。完璧な状態の中でレースに臨めることはないわけです。普通に生きている中で、きちんとしたコンディショニングを取り入れていき、マラソン大会はそのための絶好の機会だと捉えておくこと。最後の一週間だけ調子を整えたところでまったく意味がありません。レースを通じて考えたり、勉強したりということがむしろ大事です。

レース直前、気合いを入れるために何か特別なことをする必要はないわけですね。

不安はレース直前に急にやってくるものなので、会場付近にプラスアルファになるものがないか探し始めて、今まで使ったことがないサプリとかを買ってみたり、中敷を入れてみたりする人を見かけます。ほかにも、あの有名選手がこうやっているとか、いろいろな情報が入ってきて、それだけで疲れてしまいます。信じるものは、今までやってきた練習と日頃の生活態度です。なので、急にサプリを使うよりは、普段からスキンズを着用してトレーニングに臨んだ方が合理的です。

人生を楽しむためのマラソンに

コンディショニングという観点において、フィジカル的なテクニックもですが、考え方も重要ということですね。

かつて、スポーツマネジメントにおいて「恐怖」や「強制」に似たやり方が主流でしたが、今は選手に夢や希望を持たせるやり方が主流になりつつあります。恐怖で支配すると人は毛細血管が広がらず、良いパフォーマンスが発揮できないことが分かってきたんです。今、市民ランナーの方々の中には、残念ながら質を下げてしまうマラソンをしている人も見受けますが、人生の質を上げるためにマラソンを取り入れることが重要だと思います。そのためには、自分を甘やかすくらいが丁度良いのです。頑張ることももちろん大事ですが、的確に自分の状況を把握していき、進むべきか退くべきか。時に勇気ある撤退というのも大事で、強い人こそ「辞める」を選択していきます。そういう強さを誰しもに持ってほしいです。それをサポートするスキンズもこれからきっと重宝されていくことでしょう。市民ランナー全員の第一定義が「人生を楽しむためのマラソン」になることを願っています。

<プロフィール>

園原健弘
陸上競技選手。実業家。

1962年生まれ、長野県出身。
長野県飯田高等学校卒業後は、明治大学に進み、箱根駅伝にも出場した。その後、「日本陸上競技選手権大会優勝」など大きな大会で活躍。
1992年、バルセロナオリンピック日本代表に選ばれ、男子50キロ競歩に出場した。現在は、散歩指導者として活躍し、講演活動なども行っている。

コラム一覧へ