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2019年11月29日

オリンピック経験者が語る、日本人ランナーと「フォアフット走法」の付き合い方

デサントのランニングシューズGENTEN-ELを持つ競歩元日本代表園原健弘

ランニングフォームの中で、“足の挙動”に関する議論が活発に起きています。特に多いのは“着地”をテーマにした議論。「フォアフット走法」が注目されていますが、かつて箱根駅伝にも出場し男子50キロ競歩でオリンピックに出場した園原健弘さんは、その状況に警鐘を鳴らします。正しいランニングフォームの理解について、園原さんにお話を聞きました。(テキスト : 有井太郎 写真 : 小田駿一)

フォアフット走法はアフリカ系ランナーに向く

最近よく聞かれる「フォアフット走法」などのランニングフォームについて、園原さんの考えを聞かせてください。

フォアフット走法は、ランニングフォームにおける1つの理想形だと考えています。前足部から着地することで、アキレス腱は体の重量、重力だけで伸び切ります。そして、一気に縮みます。アキレス腱はバネであり、一連の伸縮に筋力はいりません。ですから、フォアフット走法は最小限のエネルギー消費量で済む。完成したフォームであることは確かです。

では、誰もがフォアフット走法を目指すべきなのでしょうか。

それは望みません。問題は、そのフォームがそれぞれの身体特性と合っているかどうかです。フォアフット走法をするには、骨盤が前傾している方が良い。さらに、足首が柔らか過ぎてもいけません。着地で足首が柔軟に動けばアキレス腱が伸びにくくなりますから。そして、直立した際にかかとが浮くような身体特性を持っているのが理想です。これらは、ケニアなどに代表されるアフリカ系の選手に多いタイプです。

■無理をすれば「ゆがみ助長ラン」になる?

競歩元日本代表の園原健弘

日本人はそういった身体特性を持っているのでしょうか。

多くの人は持っていないでしょう。骨盤は薄くて平べったく、筋肉もお尻の後ろより横につきやすい。つまり、骨盤の前傾が起きにくいのです。足首も比較的柔らかいですね。そして、かかとからべったりと地面に足が着いているはず。その意味で、フォアフット走法に適した身体特性を持っているとは言いにくいです。

そうなんですね。

そのときに、全員が「フォアフット走法が良い」と流れてしまうのは好ましい状況とは言えません。仮に金メダルを目指すランナーなら、「理想形」であるフォームを求めて、理論的なトレーニングでフォアフット走法を身につけるのもわかります。しかし、一般的なランナーが無理にフォアフット走法を実践しようとすれば、身体特性と合わないため体に無理をさせてしまう。場合によっては体に負担をかける「故障助長ラン」になるかもしれません。

ヒールストライクは長距離移動に適している

故障助長ランですか…

はい。たとえばフルマラソンでサブスリーを狙う人や、健康のためにランニングをする人は、無理にフォアフットを求めない方が体にストレスなく、健康で楽しいランニングができるかもしれません。その意味で、フォアフット走法以外の選択肢を、私たちはもっと重視しなければいけません。

その選択肢というのは、ミドルフット走法やヒールストライク走法になるのでしょうか。

そうですね。確かに日本人はフォアフット走法をしにくい体型なので、アキレス腱のバネを使いにくい。しかし、一方でヒールストライク走法に適しており、重力の位置エネルギーを変換するのが得意です。それは長距離移動に適しているんですね。

「起こし回転」を使った推進力とは

起こし回転について説明をする競歩元日本代表の園原健弘

重力の位置エネルギーを変換するとは、どういうことでしょうか。

人間のかかと部分にあたる「踵骨(しょうこつ)」は、丸くなっていますよね。かかとから着地すると、この丸みによって、地面へ直線的にかかった力が、コロンと前方へ変換される。転がるようにして前足部が着地します。このような作用を「起こし回転」といいます。

その「起こし回転」が位置エネルギーの変換になるということ?

そうです。かかとから着地するのは、決して悪いことではありません。確かにアキレス腱のバネを使いにくいですが、一方で起こし回転によりうまく位置エネルギーを前方への推進力に変換できる。大切なのは、自分の身体特性と目指すレベルを考えて、適切なフォームを選ぶことです。フォアフットにもヒールストライクにもそれぞれ良さがあり、合った身体がある。その中で選択しなければなりません。

シューズのグリップ力にこだわる必要あり

デサントのランニングシューズGENTEN-ELを持って説明をする競歩元日本代表の園原健弘

ちなみに、ヒールストライク走法で大切なポイントはありますか。

体幹の強さです。足をついたときに、きちんと地面にグリップし、ガッチリと着地しなければいけません。そこでブレてしまうと、起こし回転にムダが生じて前方への推進力につながりにくくなります。その意味で体幹を強くすること。また、きちんとグリップするランニングシューズを選ぶことも大切です。

起こし回転を生かすための工夫ですね。

はい。ランニングはどうしても「量」や「時間」を中心に考えられがちです。「何キロ走った」「何分で走った」と。しかし、あくまで技術のスポーツであり、大切なのはフォームと、それに合ったシューズを突き詰めること。適切な選択ができれば、体の力や外部の力(重力や地面反力)を引き出せるはずです。その心地よさを感じて欲しいですし、健康にもつながるでしょう。

デサントのランニングシューズ

<プロフィール>

競歩元日本代表の園原健弘

園原健弘
陸上競技選手。実業家。
 
1962年生まれ、長野県出身。長野県飯田高等学校卒業後は、明治大学に進み、箱根駅伝にも出場した。その後、「日本陸上競技選手権大会優勝」など大きな大会で活躍。1992年、バルセロナオリンピック日本代表に選ばれ、男子50キロ競歩に出場した。現在は、ランニング指導者、ウォーキング指導者として活躍し、講演活動なども行っている。明治大学体育会競走部監督

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