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2020年3月13日

自転車全日本王者 増田成幸インタビュー前編
「不死鳥」の強さの根源

全日本チャンピオン増田選手(宇都宮ブリッツェン)
自転車ロードレースは、世界で最も厳しいスポーツだと言われる。その最高峰「ツール・ド・フランス」では毎日200kmのレースが3週間続く、という事実だけでも並大抵のものではないことがわかるだろう。(ライター|小俣雄風太、カメラマン|松林寛太)
全日本チャンピオン増田選手(宇都宮ブリッツェン)

自転車ロードレース個人タイムトライアル全日本チャンピオンの増田成幸選手(宇都宮ブリッツェン)もまた、高校時代に観た「ツール・ド・フランス」に憧れ、選手を目指した一人。そして本場ヨーロッパのトップチームで活躍した、数少ない日本人選手だ。だが増田という選手を語るのに、その優れた脚力だけでなく、度重なる選手生命の危機を乗り越え勝利を収めてきた「不死鳥」と称される不屈の精神力に触れないわけにはいかない。

鳥人間がヨーロッパの舞台へはばたいた

増田選手は国内屈指の登坂力を持つヒルクライマーにして、日本一の独走力をもつオールラウンダーだ。死角のない自転車選手の原点は、意外にも鳥人間コンテストにあった。琵琶湖上を足漕ぎの自作飛行機で飛ぶ、あの鳥人間だ。

「大学では自転車をやめて鳥人間をやろうと思っていたんです。エンジニアとして。でも体力ある奴がパイロットをやるべきだと言われて、鳥人間のために実家に眠っていた自転車を引っ張り出してトレーニングを再開したんです。パイロットとしての脚力には自信がありました。」

増田選手着用Tシャツ ソレイユ半袖Tシャツ (QMMPJA20)

ロードレースとの共通点も多いという鳥人間コンテスト。2005年には飛行距離の日本記録を打ち立てた。そして自転車のトレーニングは次第に手段ではなく、目的になった。

「自転車レースが面白くて、在学中にはプロになりたいとまた考えるようになりました」

そのフィジカルの強さはロードレースでも遺憾無く発揮され、とりわけ厳しい登りのレースでの活躍は関係者の目を引いた。2006年にプロデビュー。めきめきと頭角を表していき、順風満帆な選手生活かと思われた矢先の2010年、大ケガを負う。選手として先が見えていた時期の大ケガにかなり落ち込んだという。

「選手としてもう復帰できないんじゃないかとすごく不安でした。でも、復帰するために今できるリハビリを100%、いや120%の努力でやってみようって。仮にそれで復帰できたとして選手として成績が出なかったとしても、それは頑張った結果なんだから納得できると思ったんです。」

その決心には増田選手のメンタルの強さがすでにうかがえる。だが彼はむしろ、ケガを経てより強い選手へと成長を遂げた。総合力を評価され、2013年にはイタリアのキャノンデール・プロサイクリングチームと契約。本場に認められた数少ない日本人選手となった。

自転車レースへの情熱が、苦境を乗り越えさせる

だが、天は増田選手に新たなる試練を課した。2017年にバセドウ病の罹患を発表。戦線を離れ、闘病生活に入った。自転車選手として最も脂の乗る時期に訪れた、突然の難病。しかし「不死鳥」はいつも苦境に打ち勝ってきた。

そこにどれほどの苦痛が伴ったか、私たちには知り得ない。本人は「最初の大ケガで、辛くてもひたむきに諦めずに頑張ることの大事さを知りました。僕にとっては、諦めないというのは一種の成功体験というか、根拠のある自信なんです。」とさらりと言ってのける ものだから、なおさらだ。

しかし自転車ロードレースにかける熱い想いを、誰よりも持っているのも増田だ。

「苦しい時に、最後にもう一回自転車に乗りたい、もう一回自転車でロードレースがしたいって思う、深いところにある自分の気持ち。これが原動力ですね。やっぱり自転車が大好きなんです」

2019年7月、増田選手はキャリアで初の全日本王者のタイトルを個人タイムトライアルで勝ち取った。直前のレースで落車骨折を追いながら、「不死鳥」は並み居る強豪を蹴散らして王座に就いた。そして10月、シーズン最後の頂上決戦ツール・ド・おきなわでも勝利。苦しみも栄光も味わってきた勝負師はロードレースの本質を鋭く衝く。

「いくら努力して積み重ねていても、ロードレースは勝てるとは限りません。でもある日突然チャンスが巡ってきた時に、そこまで積み重ねてきたものがないと絶対に勝てない。だからその日を信じて、頑張るんです。」

増田選手は自らの生き方で、それを示してきた。そして母国最大の夢の舞台での「その日」は刻々と近づいている。

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<プロフィール>

増田成幸選手
1983年生まれ。宇都宮ブリッツェン所属のプロロードレーサー。高出力を長時間維持する走りに優れ、日本屈指のヒルクライマーであるとともに2019年個人タイムトライアルでは全日本チャンピオンに輝いた。

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