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2019年10月08日

柴崎岳を支える隠れた“武器”
アンブロインナーウェア・アートフレックスの制作秘話

アスリートにとって身に纏うもののセレクトが重要であることは言うまでもありません。それぞれの競技に特化したシューズやウェアが存在し、パフォーマンスを高めるという目的をもった様々なギアが展開されています。ただ、その中でもなかなか“パフォーマンスアップに繋がるイメージがないのがコンプレッションウェアではないでしょうか。
デサントが展開するフットボールブランド・アンブロが開発した「アートフレックス」もその一つ。アンブロの契約選手である日本代表・柴崎岳選手も着用しているこの製品は、これまでになかった“サッカー選手専用”のコンプレッション(インナー)ウェアです。
なぜ、このような競技特化型の製品が生まれたのでしょうか。そして、知られざる効能とは。製品を手掛けたデザイナーの中野鉄也さんと、MD担当の勝又淳司さんにお話を伺いました。

柴崎岳選手が興味を持ち、共同開発が実現

アンブロとしてこういった商品を展開することになった経緯を教えて下さい。

中野:もともとサッカーの分野においてコンプレッションウェアの市場が盛り上がったのは2010年頃です。他ブランドのものではありますが、海外の選手が着ている姿が露出され始めました。そして、サッカープレーヤーにも広がっていったという流れです。

アンブロはオンリーフットボールブランドなのですが、この時期に「フットボール専用のコンプレッションウェアができないか」という議題が上がりました。その過程で龍谷大学の長谷川裕先生の協力を得て、動体解析を始めました。選手の動きのデータをとって、それに対してエビデンスを導くことを専門的に行っている方です。

内容としては国内外のプロサッカーリーグを見て90分の間にピッチに立つ11人にはどういう動きが多く、どういった動きが少ないか、というデータを取ります。その結果、試合の勝敗を決めるのは先発選手が後半に抱える疲労の部分が大きいことが分かりました。細かくいうと、疲労することによって体幹が崩れミスが生まれるということです。では、そこにフォーカスしてコンプレッションウェアを作ろうということになりました。

左:MD担当勝又さん 右:デザイナー中野さん

そうしてできた前身のコンプレッションウェアに対するユーザーさんの反応はいかがでした?

中野:当時としては“サッカー専用”のインナーとして先駆けで高価だったこともあり、店頭ではなかなか声を拾いきれなかったのが正直なところです。ただ、着用頂いたプロ選手からは好評でした。その後、コンプレッションウェアは別ブランドでの展開が決まっていたので、アンブロでは継続できずに一度は諦める形となりました。

その中で、一度無くなったものが今回復活したわけですね。

勝又:そうですね。2017年7月に契約をスタートした柴崎岳選手の存在が大きかったです。当然、スパイクをサプライする形から始まったのですが、「アパレルウェアでも何か共同開発をできないか」とお話をさせていただいたところ、柴崎選手自身もコンプレッションウェアに興味を持たれていて。 先程申し上げた動体解析や疲労などのデータ収集についても彼と話したのですが、試合中に疲れることによって視野が狭くなるといったこともおっしゃったんです。まさに前身のモデルで取り組んでいたことと重なっていたので、進化させたものを作ろうと、アートフレックスが出来上がりました。

実際に柴崎選手からはどういった評価いただいているのでしょうか。

中野:締め付け具合がちょうど良いと。あとは、着ることで体幹が安定する感じがします。というコメントを頂きました。

パフォーマンスUPに徹底的にこだわる

機能面でこだわった部分はどういうところなのでしょうか?

中野:長谷川先生からいただいたノウハウは継承しつつ、3段階のパワーで適材適所を緩めたり締めたりすることができる機能を持たせたのが特徴です。そして、それを実現するために一枚の生地で作りあげました。身体に密着するものなので、ストレスになってはいけない。だからこそ、極力縫い目をなくしたんです。

一般に販売しているユニフォームの下に着るものよりは、もう少し締め付けが強くなっています。疲労は筋肉の振動に影響してくるので、抑制すると疲れが少なくなるんですよ。ただ、全身を締め付けるとかなり呼吸が苦しくなるので、胸は比較的柔らかい素材で細かい締め付けに抑え、後ろで姿勢を正すという構造にしました。

データに導かれて効果的なものを作ったのですが、デザイン的にもかっこよくしていく必要があります。このバランス感はとても難しかったです。デザインのインパクトというところにも取り組み、この形になりました。

正直、コンプレッションウェアの選ぶ基準はなかなか難しく、効用についても理解されていないように思います。

勝又:もともと“汗取り”という部分で認知され広まっていったのですが、実は様々な用途があります。例えば弊社の包括的業務提携先であるワコールさんのCW-Xは“着るテーピング”と銘打っています。サポート機能が付いていて、そのまま膝にフィットするんです。 それぞれ選ぶ目的があると思うのですが、アートフレックスは“戦うギア”として作りました。こだわりを持つユーザーに向けて作りたいという思いで開発したというのもあるので、体幹訂正と着用によるパフォーマンスアップの二つを徹底的にフォーカスしています。

なるほど。ただ、なかなか高価で簡単には手を出しにくいようなイメージもあります。

勝又:マーケットの現状として10年20年前と比べてパーソナルウェアが売れなくなってきています。以前よりもお店でシーズン物が並ぶことが少なくなってきていて、おそらくチームで支給される練習着などを着ているんですよね。ただ、その代わりに“ギア”への投資は変わらずされているんです。 たとえば、県ベスト16くらいの高校の控えの選手でも20,000円以上するスパイクを半年に一回くらいで変えていたり、3,000〜5,000円ほどするセパレートストッキングなども安定的に売れたりしているんです。

つまり、プレーヤーの方達も試合でパフォーマンスに直結する物への投資はしっかり行っていると感じています。

コンプレッションウェアはパフォーマンスアップにつながるものなのですね。

勝又:はい。ただ、SKINSでもそうなのですが、リラックスする時に着るものやパフォーマンスの時に着るものがラインナップとしてある中、その良さをどう伝えるかというのは伝わりづらいですし難しいところでもありましたね。

“勝負着”として打ち出していきたい

日本サッカー界の象徴的な存在でもある遠藤保仁選手と契約されていた中、今後の日本の中盤を担っていくであろう柴崎岳選手と契約ができたというのはブランドとしてもとても大きな意味があるのかなと。

勝又:まさにおっしゃる通りだと思います。アンブロは結果的に中盤の選手を起用することが多いですね。その中で今は柴崎選手と一緒に取り組めている。ここに集中して色々なアイテムを発信していこうとしています。優先順位もかなり高くしています。

色々な選手と契約するというよりは、遠藤選手や柴崎選手というように少人数にフォーカスしているイメージがあります。

勝又:そうですね。各業界のトップオブトップの選手と契約し一点集中で取り組んでいます。例えばデサントだったら大谷翔平選手と契約しています。柴崎選手に関してはプレー面は言うまでもなく、コメントの力もあり、様々な層のファンがいます。弊社にとっては本当に有意義な契約だと思っています。

著名選手の力を借りることができるのは大きい中、当たり前ですが良いものである一方で価格も安くない。これはある種チャレンジとも言えるかなと思います。

勝又:かなりのチャレンジになりますね。これの3分の1くらいの価格のインナーを取り扱っているお店からは高いということも言われたのですが、そこは想定済みでした。どちらかというと、マーケットに問う形で展開していこうと。それくらいでないと爪痕は残せないと思っています。その中で開発しても伝える場がないまま終わりになっていたところはあったので、柴崎選手の声といったところはとても大きかったですね。

中野:スパイクやストッキングに次ぐ、“勝負の時に身につけるもの”、勝負着のようなものとして打ち出していきたいです。選手のレベルによってモチベーションは様々だと思うのですが、控えの選手でもレギュラーに上がった時に結果を残せるようにというメッセージを伝えていきたいですね。今の世の中では、この価格での投資はすぐにはできない。でも、その思いの部分にもこだわっていきたいですね。

柴崎選手と共同開発 アートフレックス商品はこちら

<プロフィール>

デサントジャパン株式会社
アンブロマーケティング部 MD課 企画担当
勝又 淳司

<プロフィール>

デサントジャパン株式会社
アンブロマーケティング部 MD課 デザイナー
中野 鉄也

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