第3回:低酸素トレーニングの効果とマラソン大会までの追い込み方

2022.12.02

4ヶ月でマラソン自己ベスト更新を目指す「デサントランニングプロジェクト」。この挑戦も、いよいよ後半戦に突入しました。

ベスト更新に挑むランナー4名は、記録挑戦の舞台となる12月29日の大会「Beyond 2022」に向けて、どう自分を“追い込む”のでしょうか。その相棒となるのは、デサントの新厚底シューズ「DELTA PRO RACE」です。

そして今回、独自のメソッドでランナーをバックアップしているのが、ランナー向けトレーニングジム「RUNNING SCIENCE LAB(以下、RS LAB)」。

記録達成を狙う上で心強いのは、「低酸素トレーニング」をRSLABで行えること。この記事では、低酸素トレーニングの効果やポイントに触れるとともに、ここから本番へ向けてどんな調整をしていくのか、その詳細を伝えます。

それぞれの目標タイムに向けて、現在の状況を確認

デサントランニングプロジェクトでは、それぞれのランナーのプロジェクト開始前のフルマラソンタイムと目標タイムを出しています。

写真(右:清水さん 左:松下さん)

今回の取材に参加した清水綾乃さんは、プロジェクト前のタイムが3時間45分59秒。目標タイムは3時間39分59秒となっています。

そんな清水さんの課題は、VO2max(最大酸素摂取量)の数値が低いこと。その原因もわかっており、清水さんは4年ほど前にマラソンを始めましたが、それまでは「まったく運動はしませんでした」とのこと。

普段の練習でも「好きなときに好きなペースで走っていたので、(VO2maxが上がるような)自分を追い込む練習はしたことがなかったですね」と話します。

とはいえ、プロジェクトが始まって約3ヶ月経ち、日々トレーニングを積む中で基礎能力はついてきた様子。RSLABの林貴裕さんが説明します。

「清水さんはVO2max向上につながるインターバルトレーニングを増やせているので、確実に数値は上がっているはずです。そのほか、RSLABの提示するメニューも順調にこなせていますし、基礎能力は強化されていますね」

清水さん自身も、メニューをこなす中で変化を感じている様子。特に大きいのが、RSLABで行える低酸素トレーニングです。「かなりきついのですが、低酸素トレーニングを定期的に行う中で自信がついてきました」と明るく語ります。

レースで追い込み、普段はリカバリーに充ててきた10月

もう1人、今回の取材に参加したランナー・松下孝洋さんも、プロジェクト前のタイムと目標タイムが設定されており、プロジェクト前は2時間52分00秒、目標タイムは2時間48分00秒となっています。

松下さんは10月にフルマラソンを2度走り、2時間53分台のタイムも出したとのこと。「フルマラソンの間に30km走も走ったので、少し休みたいですね(笑)」と話します。

その松下さんについて、「目標達成に向けていいペースで来ていますが、かなりの距離を走っているので、ケガだけには注意しましょう」と、林さんはアドバイス。

実際、10月のメニューについても、試合後のリカバリーを目的にジョグなどを多く取り入れた様子。試合で追い込み、普段はリカバリに充てるイメージ。一方、11月は試合の予定が少ないため、普段のトレーニングで追い込んでいるようです。

「いずれにせよ、2人ともここまで距離もしっかり走れており、順調に来ています。あとは残りの期間をどう過ごすかがポイントですね」(林さん)

DELTA PRO RACEの感触は? ほかの厚底との違いも

その残り期間の過ごし方は記事の最後で触れるとして、今回初めて取材に参加する清水さんは、プロジェクトで使用するデサントの新厚底シューズ「DELTA PRO RACE」の印象をどう感じているのでしょうか。

清水さんは、これまで厚底シューズは履いたことがあるものの、カーボン入りは初めてとのこと。そのため、最初は「私が扱えるのか不安でした」と振り返ります。

「ただ、走ってみると良い意味でカーボン感がなくて安心しました。それと、ほかの厚底シューズは少しクッションのグラつきを感じてしまうのですが、それも大丈夫でしたね」

これまで、トラックやロード、トレッドミルなどでDELTA PRO RACEを履きましたが、いまのところ、「どの環境でも足への負担はないですね」と話します。

なお、記事の最後では、前回に続いて林さんが股関節トレーニングの方法を動画で紹介しています。カーボン入り厚底シューズは股関節に負荷がかかりやすいので、ぜひ参考にしてみてください。

低酸素トレーニングを行うメリットはどんなもの

写真:清水さん低酸素トレーニング中

冒頭で述べたように、デルタランニングプロジェクトで重要な役割を果たしているのが「低酸素トレーニング」です。

RSLABは低酸素トレーニングが行える設備が整っており、清水さん・松下さんも週1回、あるいは1.5週に1回のペースで実施。1回50分ほどの時間で行っています。

では、低酸素トレーニングはどんなメリットをもたらすのでしょうか。RSLABの杉山虹さんはこう説明します。

写真:トレーニング前

写真:トレーニング後

「ひとことで言えば、体の負荷が高くなり練習効率が上がります。1回ごとの酸素交換の量が少なくなるので、体は酸素交換の回数を増やす動きに。その結果、VO2max向上や、有酸素性運動(酸素を使った運動)のパフォーマンスが上がりやすくなります」

こういったメリットについて、杉山さんは仕組みをさらに細かく説明。低酸素トレーニングを行うと、血液と筋肉それぞれに以下のメリットがあるようです。

■血液
1、赤血球の産生に必要なホルモン(エリスロポエチン)が増加。酸素を運ぶ能力が高まる。

■筋肉
1、血液を運搬する毛細血管の量が増える。
2、血液が運んできた酸素を受け取るミトコンドリアの量が増加。
3、体内の疲労物質を分解する「筋緩衝能」が向上。

なお、杉山さんによるとクロスカントリースキーの選手はVO2maxが高い傾向にあり、これは「高地での競技や練習が多いことも関係しているのでは」とのこと。

最近は、一般ランナーも高地に行ってトレーニングを行うケースも増加。とはいえ、高地に行くのは時間も費用もかかりますし、高山病などにかかるリスクもあります。

その中で「低酸素ルームは短時間・低コストで行え、また、体調に合わせてすぐに止めるなどの調整が可能です」と杉山さんは語ります。

写真:RSLAB 杉山虹さん

低酸素トレーニングの意外な効果は「発汗」と「リカバリー」

清水さんと松下さんは、実際に低酸素トレーニングを行う中でどんな感覚を持っているのでしょうか。

清水さんの第一声は「毎回とにかく汗をかきますね」。RSLABの低酸素ルームは室内温度をあえて18度と低く設定していますが、それでも走り始めると暑さを感じて発汗するようです。

これは「酸素が少ない分、体が何度も酸素交換を行おうと血流が良くなり、発汗が増えるんですね」と杉山さん。こういったことから、実は汗をかく目的で低酸素トレーニングを行う人も多いのだとか。

さらに、杉山さんによると、低酸素での運動は体の回復・リカバリーにも効果があるようです。

「体に負荷をかけない程度のゆっくりした運動を低酸素で行うと、酸素の換気力が高まり、通常状態に戻ったときにリカバリーする力が強化されます。疲労回復のために低酸素トレーニングを使う形もあるんです」

この低酸素トレーニングで能力を高めるのは、今回のプロジェクトの大きな特徴。最終目標のBeyond 2022に向けて、これからも各ランナーが活用していきます。

本番へ向けて20km走を実施。そこで確認すべきこと

Beyond 2022が行われるのは12月29日。ここからは、大会に向けてのプランが林さんから伝えられました。

「本番前の重要な試走として、12月10日にメンバー全員で20km走をレースペースで走ります。一度レースペースで距離走を行うことにより、いろいろなことが見えてくるはず。たとえばこのペースで本番もいけるのか。もし厳しそうなら、本番は前半でペースを抑えるなど、戦略の修正が必要になりますから」

そのほか、10月末にメンバーの1人がレースペースで20km走をしたところ、途中で差し込み(脇腹痛)が発生しました。こういったことを確認するのもレースペースで走る意味であり、「差し込みの原因について、直前の食べ物やコンディションの調整方法を見直すことにもなります」と林さん。

「12月10日までは負荷をかけ、その後は本番までコンディション調整に充てる予定です。清水さんはVO2maxを上げるために、インターバルトレーニングでとにかく自分を追い込んでみてください。松下さんはケガに気をつけて、コンディション第一で進めてほしいと思います」(林さん)

これらの説明を聞いて、「20km走はコンディション調整の練習とも捉えて、うまく調子をピークに持っていきたい」と意気込むのは清水さん。

一方、松下さんは「20km走については余力を残せるくらいのコンディションで挑み、その後、年末に向けて調子を上げていきたいですね」とコメント。それぞれの考え、プランが見えます。

デサントランニングプロジェクトもいよいよ追い込みの時期。メンバーたちの自己ベスト更新はなるのか。次回の記事では、本番直前の調整方法や、メンバーの意気込みを聞く予定。ぜひご期待ください!

文/有井太郎

DELTA RUNNING CREW