【アンブロ】U by GAKUの原画を手掛けた女性ねぶた師・北村麻子氏インタビュー

2020/12/07

写真左)北村麻子氏書き下ろし原画   /  写真右)柴崎岳選手コラボ商品

U by GAKUの原画を手掛けた女性ねぶた師・北村麻子さんインタビュー

柴崎岳選手×umbroのコラボレーションモデル「U by GAKU」の第4弾は、柴崎岳選手の出身地である青森で行われる“ねぶた祭”をフィーチャー。史上初の女性ねぶた師として活躍する北村麻子さんとのトリプルコラボで、鎧をまとった武者をイメージした迫力のあるねぶた原画をデザインしています。原画を制作した北村麻子さんに今回の原画に込められたメッセージについてお話を伺いました。


東北3大祭りのひとつ、ねぶた祭り

――ねぶた祭りとは、どのようなお祭りか教えてください。

ねぶた祭りは、毎年8月2日~8月7日までの5日間で開催される東北三大祭りのひとつです。横幅9m×高さ5mの巨大なねぶたを乗せた山車、22団体が街中を練り歩くのですが、それ見るために毎年国内外から200万人以上の人が訪れる、国内でも有数のとても大きな祭りです。祭りが開かれる1週間は、青森市内が観光客でいっぱいになるんですよ。

話して説明するのと、実際に見るのとではやはり全然違って、実際に見に来られた方はみなさん感動されて「絶対来年も来る!」って言ってくださるような、すごくいい祭りなんです。

――北村さんにとって、ねぶたとはどんな存在ですか?

父もねぶた師なので、物心つく前からねぶたはすごく身近な存在した。私たちねぶた師は、ねぶたを中心に1年が回っているんです。みなさんにとっては1月1日や4月1日が1年のはじまりだと思うんですが、私たちは祭りが終わった8月8日から1年がスタートするんです。次の年に向けて下絵の構想を考えたり、準備に取り掛かるわけです。特にねぶた師になってからは、ねぶたを作ることは自分にとってかけがえのない、なくてはならないものに感じますね。


史上初の女性ねぶた師誕生のきっかけ

――ねぶた師を目指すようになったきっかけは?

2007年に父、北村隆が制作した「聖人聖徳太子」というねぶたがきっかけです。父はこれまでにも数々の賞を受賞してきたんですが、その3年ぐらい前から不況の影響などから、ねぶたの台数が減り、廃業の危機にさらされていたんです。そういう苦しんでいる父の姿を間近で見ていたものの、子どもの私たちには全く何もできませんでした。

そんな状況の中、2007年に父が制作したねぶたを見たときにすごく衝撃を受けました。造形の斬新さはもちろんですが、ドン底の3年間から這い上がってきた父の姿を見たときに、これは父の代で終わらせてはいけない。なんとかこの技術を受け継いで、後世に伝えていかなければいけないと思って、ねぶた師を志しました。

――若手ねぶた師のひとりとして、今掲げている目標を教えてください。

ねぶたには審査制度があり、1~22位まで順位がついて、上位5位に賞がつきます。今、その中でも若手ねぶた師の作ったねぶたはどんどん上位に食い込んでいます。それってねぶた全体にとってすごくいい流れだと思うんです。私もその若手ねぶた師の一員として、ねぶた祭り全体を引っ張っていきたいというのが一番の大きな目標です。


新型コロナウイルスの影響で2020年のねぶた祭りが中止に

――2020年のねぶた祭りは、新型コロナウイルスの影響で中止になってしまいました。北村さん自身はどのよう感じられましたか?また周りの方の反応はどのようなものでしたか?

中止を知らされた当時、私たちは既に制作が進み、組み立て作業に入っている最中でした。コロナの感染拡大が広がっていて、もしかしたらというところはありましたが、実際に祭りが中止だと言われたときは、本当に目の前が真っ暗に。なんとも言えない気持ちで、いろいろな不安がありました。

まず1年間、どうやってごはんを食べていくんだろうというのもありましたし、私の父はもう72歳なので、その父が1年間ねぶた制作を休んでしまう。1年ならまだいいかもしれませんが、それがもし2年、3年と続いてしまったら、父の体力は続くんだろうか。そういう心配もありました。中止が決まってしばらくは、TVでねぶたの映像が流れるだけで本当に涙が出てきちゃうんですよね。それぐらいショックは大きかったです。

周りのねぶた師の方々も、やはりみんな気持ちは同じだと思います。地元の方やねぶたファンの方もすごくショックを受けてらっしゃるだろうに、私やねぶた師の心配をしてくれました。SNSなどで励ましのメッセージをたくさんもらったんです。今回コロナで祭りが中止になったというのをひとつのきっかけとして、SNSを通じてねぶたファンの方々と直接つながることができたかなと思います。

――ねぶた祭の中止に伴い、6月にはねぶた師合同で特別ねぶたを制作するプロジェクトのクラウドファンディングが立ち上がりました。展示だけでなく次回開催の祭り本番で運行することも決定したそうですが、この特別ねぶた制作に向けての意気込みを教えてください。

これはコロナで祭りが中止になり、ねぶたの灯を絶やさないために、そして職を失ったねぶた師の救済のために青森観光コンベンション協会が立ち上げてくださったクラウドファンディングです。この特別ねぶたは、実はまだ制作の真っただ中です。支援してくださった方々の想いを私たちが形にしなくてはいけないので、すごく責任を感じますね。その一方で、こうしてねぶた師が合同でひとつの作品を作り上げるというのは前代未聞のことなので、私自身、これを作り上げるのがすごく楽しみでもあります。

――北村さんのInstagramでは、白黒の下絵にみんなが自由に色を塗る「塗り絵ねぶた祭」を開催されていましたね。これはどのようなきっかけではじめたのですか?

祭りが中止になり、ねぶた師として何かできることはないかなと思っていました。実は、ねぶたファンの方から「コロナで外に出られないから、家の中でできる塗り絵などをやってほしい」とHPにメッセージをもらったんです。全国各地のいろんな方が参加できる素敵なアイディアだなと思って、実現したのが「塗り絵ねぶた祭」です。

――現在も北村さんのInstagramで応募作品が見れますが、どれも力作ですね。

そうなんですよ! みなさんクオリティが高くてびっくりしましたね。私たちのねぶたの絵というのは、ねぶたとして表現できる色合いや着色の方法で仕上げるのですが、みなさんの自由な表現は、私たちの概念にない色合いだったりして、勉強になりました。白黒の下絵から、こんなにいろんな表現があるんだなってすごくおもしろかったですね。

――柴崎選手も塗り絵ねぶたに挑戦されていましたね。

柴崎選手に塗り絵をしてもらえると思っていなかったので、最初に見せていただいたときはまさかウソでしょ!? みたいな(笑)。本当にびっくりしましたね。色合いも独特で、個性が光る作品だなと思いました。


青森の誇りである柴崎岳選手とコラボレーション

――umbroはもともとご存知でしたか?

私がサッカーに興味を持つようになったのは2002年のサッカーの大会ですね。日本全体がサッカー熱で盛り上がっていて、私も便乗したって感じなんですが(笑)、

たしかイングランド代表選手のユニフォームはumbroでしたよね。

あと青森のサッカーチーム「ラインメール青森」のユニフォームもumbroですね。

――柴崎選手のイメージを教えてください。

実は、柴崎選手の出身高校はねぶた祭りでねぶたを出しているんですが、そのねぶたの制作をずっと父が担当していたんです。青森市民としてはもちろんですが、そういうつながりもあり、柴崎選手の出身高校のサッカー部をずっと応援していました。

青森には柴崎選手の伝説みたいな話がたくさん残っているんですよ(笑)。高校時代、チームメイトにカラオケに誘われても絶対に行かなかったらしいんですよ。その理由が「カラオケに行ってもサッカーはうまくならない」っていう。なかにはそういう柴崎選手のストイックさが伝わるような伝説も。青森の人は、みんなそういう話を知っていると思いますよ!


侍のように凛とした柴崎選手の姿を鎧をまとった武者で表現

――今回の原画は、どのようなテーマで描かれたのでしょうか?

柴崎選手の侍のように凛とした姿を描きたくて、鎧を着た武者として描かせていただきました。試合に挑む際の闘志は炎で表現しています。

柴崎選手は、日本のみなさんにとってもそうだと思うのですが、地元である青森の人にとってはすごく特別な選手です。そういう選手が青森から出たということが、青森の人間にとっては誇りです。なので、そんな気持ちをたっぷり込めて描きました。

――原画で特に注目して欲しいポイントはありますか?

普通のねぶたのために書き下ろす原画と一番違うのが、武者の顔ですね。実は、umbroの方から「武者の顔をできるだけ柴崎選手に近づけてください」という要望があったんですが、これが一番難しかったです(笑)。でも一番こだわった部分なので、ぜひ注目していただきたいですね。

それから絶対にねぶたでは表現しないであろうサッカーボールを持っているところや、スパイクを履いているところも見どころです。そういう普通のねぶたの原画とは違うところを見て欲しいなと思います。他には絶対にない作品に仕上がりました。

――今回のコラボアイテムは、どのような人に着用してもらいたいですか?

サッカー選手はもちろんですが、ねぶたファンの方々にも注目して頂いて、そしてこれを通じてサッカーをより身近に感じてもらえればうれしいですね。

――最後に、柴崎選手へのメッセージをお願いします。

柴崎選手は本当に地元青森、そして日本の誇りです!柴崎選手の存在が私たちに勇気を与えてくれています。これからも独特の美学を貫いて、侍のような魂を持ち続けながら世界で活躍されることを祈っています。


<プロフィール>

ねぶた師

北村麻子さん

1982年10月生まれ、青森県出身。父であり、数々の功績を残す六代目ねぶた名人の北村隆氏に師事。2012年に青森市民ねぶた実行委員から依頼され、ねぶた師史上初の女性ねぶた師としてデビュー。デビュー作「琢鹿の戦い」が優秀制作者賞を受賞し、注目を集める。