【SKI】100分の1秒に挑み続ける開発者たち。

2026.02.16

100分の1秒のために、
何百回も風を流す。

スキーのレーシングスーツに求められることは、とてもシンプルです。
それは、“選手がほんのわずかでも速くゴールできること”

その差は、100分の1秒。
数字にすればごく小さな違いですが、競技の世界では順位を分け、結果を左右する大きな差でもあります。
デサントは、そんな一瞬のために、長い時間をかけてレーシングスーツと向き合ってきました。

目立つことよりも、確実に役立つことを。
静かに、丁寧に、積み重ねるように。

速さは、一人ではつくれない。

レーシングスーツの開発は、ひとりのアイデアで完成するものではありません。“速さ”という曖昧な要素を、いくつもの視点に分け、それぞれを突き詰めていく。その積み重ねによって、ようやく一着のスーツが形になります。

—— 開発責任者/戸床

「僕らの役割は、選手が100分の1秒でも早くゴールすることです。そのために、どこをどうすればいいのかを分解して、突き詰めていく。それぞれのメンバーが、それぞれの役割で研究を進めています」

科学、素材、パターン、フィールド、そしてデザイン。それぞれの専門性が重なり合うことで、初めて“速さ”に近づいていきます。

空気は、目に見えない相手。

“速さ”を追求するうえで欠かせないのが、空気抵抗です。
理論と実験を行き来しながら、その答えを探してきました。

—— 研究員/津賀

「理論的には、こうなるだろうという予測はあります。ただ、頭の中で考えていることと、風洞実験の結果が必ずしも一致しないところが難しいですね」

コンピューター上で流れを可視化し、さらに風洞実験では、煙とレーザーを使って空気の動きを確認します。

—— 研究員/津賀

「体の周りにどんな流れができているのか。構造を少し変えるだけでも、流れは大きく変わります」

特に着目したのが、ふくらはぎの後ろ側でした。
縫い目の位置によって、空気の乱れが変わることが分かり、最適なバランスを探るため、実験は500回以上に及びました。
時間はかかりましたが、その積み重ねが、今のスーツにつながっています。

数字だけでは測れないこともある

理論やデータが重要なのは間違いありません。
ただし、最後に向き合うのは、実際にスーツを着る選手です。

—— パターンエンジニア/田中

「数字だけじゃないんですよね。選手が『ここをもう少し取ってほしい』と言えば、実際に着てもらって、つまんで、メモを取る。夜に修理して、次の朝の練習前に渡す、ということもあります」

理論的に正しくても、選手が違和感を覚えれば意味がありません。
実験結果と、フィールドでの感覚。
その両方が揃ったときに、初めて“答え”になると考えています。

速さは、美しさへとつながっていく。

速さを追求した先には、もうひとつの工程があります。
それが、「速さをどう表現するか」ということです。

—— デザインディレクター/近藤

「速さをいかにウェアで表現するか。そこには妥協をしません。素材が変われば型紙も変わり、それだけで0.01秒単位の差が生まれることもあります」

一見すると、少し違和感のあるパターン。
しかしそれは、結果から導き出された必然でもあります。そして、この考え方を象徴する言葉があります。

—— パターンエンジニア/田中

「無地の素材でも、速いものはできるんです。ただ、その上に近藤が“なお速く見える”デザインを乗せてくる。それが、デサントで昔から言われている『速いものは美しい』という言葉につながっていきます。美しいものに“化粧”をさせていくのが近藤の仕事で、その前に速いものを作るのが、戸床のところと僕らのところ。それが、世に出すデサントのスペシャルウェアだと思っています」

機能が先にあり、その結果として美しさが生まれる。
デザインもまた、速さを構成する大切な要素のひとつです。

選手のために、できることを。

開発者たちは、自分たちを主役だとは考えていません。
スーツを着て滑るのは、常に選手だからです。

「選手が100%のパフォーマンスを発揮できて、『デサントのおかげで金メダルが取れた』
そう言ってもらえるのが、一番嬉しいですね」

選手の人生がかかった一瞬を、道具として支える。
その責任の重さが、日々の開発を支えています。

まだ、完成ではありません。
デサントが競技スキーを支えてきた歴史は、50年近くになります。
それでも、開発は終わりではありません。

「まだまだ、改善の余地はあると思っています」

より速く、よりよいスーツを目指して。
クラフトマンシップとスポーツテックは、これからも積み重ねられていきます。
このスーツは、完成形ではなく、次の一歩へ向かうための現在地です。