Penguin Mag

ハイロックスペシャルインタビュー

2023.08.30

コラボレーション

あの人たちの仕事を見ていなかったら
未だに二流のデザイナーで終わっていたかも

ーハイロックさんのキャリアが語られる際には“裏原”や“ストリート”と言ったキーワードがよく出てきますが、そもそもデザインの世界に興味を持ったきっかけは?

自分の原点はもう、アメリカ好きの一言に尽きますね。今はドメスティックの優秀なブランドがたくさんあって、そういうデザイナーさんたちのフィルターを通したアメリカっていうのは若い人たちも見ていると思うんだけど、例えばサイジングの悪い洋服だとか、昔のアウトドアウェアとか、そういう野暮ったさも含めたアメリカが好きだった最後の世代が僕らだったと思います。

ーそこからご自身でもデザインをするようになった経緯は?

地元の先輩と出会って‥…という感じですね。当時友達とイベントをやったり、DJをやったりしてる先輩の中でフライヤーを作ってる人がいて、それがすごく格好よくて。ちょっと不純なんだけど、そこに憧れて夜な夜なその先輩の家に通ってMacの使い方を教わったっていうのが最初かなぁ。結構迷惑な後輩だったと思います(笑)。

ー(笑)。そこからどんなものを作るんですか?

当時はやっぱり友達に喜んでもらおうとかっていう気持ちでやっていて、作ったものを売るとかっていう発想は全くないから友達の名刺やステッカー、後はやっぱりフライヤーとかでしたね。

ーそこから当時の原宿の中核でもあったア・ベイシング・エイプに参加されるわけですよね?

そうですね。これも出会いが重要な部分を占めてるんですけど、ノーウェアの諸先輩方って、群馬出身の人がすごく多いんですよ。NIGO®さんしかり、JONIOさんしかり。それで時々彼らが地元に帰ってきて、イベントをやったりしていて。それで当時はエイプの中にベイピーというレディースのブランドがあって、そのデザイナーであり社長でもあったKIKOさんという女性に誘ってもらえたのがきっかけです。入社以前からちょこちょこ仕事をもらっていて、その商品がめちゃくちゃ売れたり雑誌の付録になったりもしていたんですが、それがすごく快感になっちゃって。「もう東京に行くしかないな」って。

ー実際に身を置いてみた当時の原宿の熱量はどうでしたか?

桁外れでしたね。エイプに入った瞬間に、「これは俺はグラフィックデザイナーで成功はできないな」と思いました。スケシン(SK8THING)さんとMANKEYさんのグラフィックを見ちゃったんで。アイディアもそうだし、すべての完成度がそれまで見てきたものとは違いました。それからは今に至るまで、アートディレクションやコミュニケーションを主体にした仕事の方が多いですね。若い頃にあの人たちの仕事を見ていなかったら僕は未だに二流のグラフィックデザイナーで終わっていたかもしれません。

ゴルフの機能ウェアとして、
どこまで遊べるか

ー独立以降はどんなお仕事をされてきたんでしょうか。

最初の方はロゴデザインみたいに点で終わるものが多かったです。そこからだんだんそれを洋服に落とし込んで……となっていくんですが、それって結果的にエイプ時代にやっていたこととすごく似ていたんですよね。その最たるところがアーティストのグッズ、いわゆるマーチャンダイズですね。リップスライムのツアーグッズや若いラッパーのグッズだったり、ミュージシャンから企業もののノベルティデザインまで、たくさんやってきました。

ー個性的なクライアントワークですね。その中でも今回のようにゴルフに関わるものはありましたか?

いや、初めてですね。しかも自分自身は打ちっ放しはやるけど、コースに出てプレイすることはないので。ただ、このオファーをもらえたことが実はすごくうれしかったんです。

ーその理由を聞いてもいいでしょうか。

ゴルフに関わるデザインをやりたいなと、ずっと思っていたので。と言うのも、昨今ストリートゴルフウェアブームが続いているじゃないですか? そういうものをたくさん見ているうちに、自分だったらどういうものが作れるかな……と考えていたので、感覚的にすごくフィットしました。

ーなるほど。実際に協業するにあたり、マンシングからはどんなリクエストがあったんですか?

ああしろ、こうしろとというのはほとんど無かったです。ただひとつ、マンシングのウェアってちゃんと競技用のゴルフウェアとして機能しないといけないもので、そこは指摘されました。あとは、ミリタリーすぎるデザインがダメだったりとか。

ーそれはどんな理由でNGが出たんですか?

おそらく、平和を是とする紳士のスポーツだからとか、ポケットが大きすぎるとプレーしにくいとかそういった部分だと思っています。マンシングの方から「これだとカントリークラブや紳士としてのルールに反してしまう」とか、そういう意見をいただいて。でも、そういうゴルフとしての正統な知見の部分はマンシングチームが持っているから、今回の試みでそれを外してしまうことはまずないなと思って、そこからは逆にゴルフのルールを守った機能ウェアとして、どこまで遊べるかっていう風に自分の中でテーマを置き換えました。

ファッションはやっぱり
自由だから面白いと思う

ー普段とは違う制約があるデザインは大変そうですね。

いや、完全に面白いルールだと思っていましたよ。こういう諸条件がある上で、どこまで暴れられるかっていうのがゲームの楽しみ方なので。

ー逆に追い風になった部分はありますか?

ファブリックの機能性がそうですね。特に、ストレッチ素材は。それで言うと、シルエットも自分が思っているよりも細身のものを求められることも新鮮でした。自分が当初予想していた形よりもサンプルでは細めに上がってきたな、ということがあったんですけど、それも新しいバランスで面白いなと思えたり。

ーそれは協業ならではのエピソードですね。とはいえ、完成したアイテムを見ているとやっぱりストリートのムードも感じます。コレクションの全体像はどこから考えていったんですか?

カモフラージュからですね。僕はクライアントワークの中で必ず1個、カモフラージュの発明をしようと思ってるんですよ。オリジナルのカモフラージュ柄って色んなところでコスられてきてるから、柄の中にロゴやモチーフが入ったぐらいじゃ発明にはならない。今回で言ったら“ゴルフ”っていうお題の中でカモフラージュを作っていくっていうアプローチが可能になったら成功と言えるなと思ってました。で、僕には航空写真を見る癖があって、その延長でゴルフ場付近の写真を見ていたら、これ自体がカモフラージュに見えるなと思ったんです。だからこれは“ゴルフ場カモ”。バンカーがあってグリーンもあって。これはひとつ、新しい発明ができたなと思ってます。

ー“3CP”というのはもともとマンシングにあったラインに由来すると聞きました。

そうです。最初は“3 COLORS PENGUIN”というキーワードをもらったんですけど、それが少し使いにくくて略称の“3CP”と名付けたんです。スターウォーズのドロイドみたいに、記号的な感じで。ペンギンのロゴもデフォルメして、少しカワイくしています。これもエイプ時代にNIGO®さんから学んだことですけど、格好良すぎるのは格好悪いと思うので、そのバランスを意識しました。

ーこうやって出来上がったコレクションは、どんな風に楽しんで欲しいですか?

ゴルフはもちろん、街でも着られるものを多く作ったつもりなので、ゴルフが好きな方々にそうやって色んなシチュエーションで着てもらえたら嬉しいです。長年のマンシングファンの方にも、若い人にも。ファッションはやっぱり自由だから面白いと思うので。カモフラのジャケットは僕自身も早く着たいなと思っていて、今はそれが届くのを楽しみにしているところです。そしたら僕も、コースデビューしたくなりそうだなぁ(笑)。

ハイロック
アートディレクター
HIROCK DESIGN OFFICE主宰。群馬県出身。自身や身近な友人のために独学でデザインを始め、縁あって裏原宿ムーブメント真っ只中の折にア・ベイシング・エイプへグラフィックデザイナーとして参加。以来、20年以上にわたりストリートカルチャーと密にリンクした独創的なアイデアを生み出し続ける。独立以降は企業やアーティストなど、様々なクライアントからのオファーを受けてアートディレクションやデザインを行なっている。プロダクトやガジェットにも精通し、自身の手がけるメディア、「HIVISION」ではそうした情報を発信中。実に11年ぶりとなるモノ紹介の自著、『HIROCK MANIA』が先頃発売されたばかり。