第4回:マラソン自己ベスト更新に必要な最終調整とレースアイテム

2022.12.26

4ヶ月のトレーニングでフルマラソン自己ベスト更新を狙う「デサントランニングプロジェクト」。記録挑戦の舞台となる年末のマラソン大会が迫る中、12月10日には、本番を見据えた20km走をメンバー全員で行いました。

その結果をふまえ、これから本番までにどんな調整をしていけば良いのでしょうか。プロジェクトを全面サポートするランナー向けトレーニングジム「RUNNING SCIENCE LAB(以下、RS LAB)」とともに、自己ベスト更新を達成するための最終調整を考えていきます。

さらに今回の挑戦では、デサントの新厚底シューズ「DELTA PRO RACE」を履いてベストを狙います。シューズ選びを含め、冬のマラソンでの寒さ対策や水分補給のポイントについても触れていきます。

20km走で見えたメンバーの成長。ハーフ自己ベストも記録

12月10日にメンバー全員が行った20km走は、本番への重要な試走。自己ベスト更新に必要なレースペースを設定し、実際にそのペースでどこまで行けるか試しました。

まずは今回、かなり良好な結果が出たのは西川晋作さんです。

■西川晋作さん

プロジェクト前タイム3時間12分12秒→目標タイム2時間55分00秒

【もとは800m走が得意で、VO2maxは高いがランニングエコノミーの低さが課題】

西川さんは20kmを過ぎても快調なペースを刻み、ハーフマラソン自己ベストを記録。約1ヶ月前に行った20km走は4km時点で歩いてしまいましたが、今回は大きく前進しました。

「走っているときはタイムを意識せず、自分の呼吸と対話してリラックスしながら走りました。腕時計も心拍数だけを見ていて。もしかすると自己ベストが出るかなと思ったけど、本当に出たときはうれしかったですね」

プロジェクトが始まって以降、毎朝5時半〜6時半に練習をしていた西川さん。その成果はタイムだけでなく、ランニング能力を数値化した「アビリティ測定」(第1回記事参照)にも現れている様子。RSLABの杉山虹さんが説明します。

「9月の計測時に比べて、VO2maxは57.3→74.4(mL/min/Kg)に大きく上昇。測定値をもとにしたフルマラソン予測タイムも、前回から20分短縮して2時間41分46秒になりました」

数字通りに受け止めれば自己ベスト更新の可能性は高そうですが、杉山さんは注意点を伝えます。

「まだランニングエコノミーが相当低く、“走りの効率”は良くありません。心肺機能が強化されたことは確かですが、効率の悪さから距離が伸びるフルマラソンでは後半失速するリスクもありますよね」

西川さんもこの課題は認識しており、「大会までペース走を重ねて“省エネの走り”を身につけたいですね」と、自身のプランを口にしました。

続いて20km走を振り返ったのは、清水綾乃さんです。

■清水綾乃さん

プロジェクト前タイム3時間45分59秒→目標タイム3時間39分59秒

【もとは800m走が得意で、VO2maxは高いがランニングエコノミーの低さが課題】

「ほぼ運動経験ナシからフルマラソンへ。VO2maxの向上がタイム短縮のカギ」

清水さんはRSLABのメニューをこなす中で、着々と実力がアップ。4年前から走り始めましたが、今季のフルマラソンでは後半の1kmペースがマイナス30秒ほどになっているとのこと。

「これまでは好きなときに好きなだけ距離を走っていましたが、RSLABのトレーニングは効率よくタイムを上げることにフォーカスしているので、短時間で力をつけられたと思います」

先日の20km走では、1km5分のペースで16kmまで走破。最後まで走り切ることはできませんでしたが、「このペースでは厳しいことがわかったので、本番は1km5分10秒くらいで抑え気味に入り、気持ちよくゴールしたい」と、明るく抱負を口にします。

このとき清水さんのペーサーを務めたRSLABの林貴裕さんも、彼女の考えに同調。「16kmで止まったのは全然悪いことではなく、本番の参考になります。少しペースを落としても十分に自己ベストは狙えるので頑張ってほしい」と後押しします。

なお、清水さんもVO2maxは47.7→51.6に上昇。「一番上げにくいVO2maxがしっかり上昇したのは大きい」と林さんは笑顔を見せます。

本番のペースをどこに設定するか、それぞれの思惑

20km走が行われた日、かなりの集中を見せていたのが阪本奈々さん。なぜなら、1ヶ月前の20km走で差し込み(脇腹痛)が発生し、満足いく結果を残せなかったためです。

■阪本奈々さん

プロジェクト前タイム3時間24分30秒→目標タイム2時間59分59秒

【かつて実業団所属も9年のブランク。4ヶ月でどこまで取り戻せるか】

前回の悔しさから、今回の20km走当日は外から見ても「アスリートのような表情だった」と林さん。それほど強い気持ちで望んだ阪本さんは、見事に完走しました。

「前回以降、私も少し朝練を取り入れたり、スピード練習を増やしたりして調整してきました。完走してホッとした部分もあるし、体調の波を感じる中でひとまず走りきれたのはプラスだと思っています」

目標のサブスリーに届くかは「正直微妙な状況ですし、ここからタイムを大幅に上げるのも現実的に難しい」と冷静に分析。ただし、明確なレースプランを持って本番に挑むようです。

「20km走ではだいたい1km4分17秒で走れていたので、本番のポイントはどこまでそのペースを維持できるか。仮にペースが落ちたとしても、ガクッといかないよう我慢したいと思っています」

最後に振り返るのは、メンバーの中でもっとも早いタイムを目指す松下孝洋さん。

■松下孝洋さん

プロジェクト前タイム2時間52分00秒→目標タイム2時間48分00秒

【エース的存在。経験者だからこそ、さらなるタイム短縮のハードルをどう超えるか】

松下さんは、仕事の関係で20km走は態勢が整わず調整程度になったとのこと。しかし、個人で数多くの大会に出ており、その結果から「目標とする1km4分ペースのハーフマラソンは問題なく出来ている」と分析します。

「普段は自分もコーチとして教えることがあるのですが、今回ランナーの立場でRSLABさんのきついメニューをこなしてみて、学ぶことも多かったですね。やっぱり、タイムを出すには厳しい練習をしないとダメなんだなと(笑)。低酸素トレーニングもたくさん取り入れさせていただき、今後の陸上人生につながる経験ができたと思っています」

このチームでつねに先頭を走ってきた松下さん。そのサポートを担ったRSLABの林さんは、ここまでの道のりをこう振り返ります。

「もともと高いレベルでマラソンをやってきた方なので、そこからもう1つ上のタイムを目指すのは難易度が高いんですよね。その中で、こちらの提示するメニューだけでなく、自分自身でもメニューを組み立てていたのはさすがだなと。僕らとしても見習うことが多々ありました」

最大の不安は練習量の多さからくるケガでしたが、現状は問題ない様子。「あとは本番に向けての調整ですね。楽しみと不安が入り混じっています」と松下さんは語ります。

レース前10日間の過ごし方と、最終刺激について

20km走を終えて、ここからレースまではコンディショニング中心となります。RSLABからは、本番へ向けての調整方法や、当日の対策についてアドバイスがありました。

「大会の約10日前から『テーパリング期間』に入り、走る量を減らしていきます。大会が近づくと緊張感や不安は増しますが、そこでトレーニングをしすぎて当日キツくなるのが一番よくないパターン。コンディション第一でいきましょう。体調が上がるとランニングエコノミーが向上するケースもありますから」(林さん)

さらに林さんは、大会前の「最終刺激」についてもアドバイス。ランナーによって考え方が分かれやすい項目で、「レース序盤のペースか、もう少し早いペースで2〜3km走る人もいれば、最終刺激をせずに挑む人もいます」とのこと。

「マラソンは最終刺激がいらないという考えもありますし、一方で肉体的な効果より精神面を盛り上げるために行う人もいます。正解はありませんが、レースへの安心感を生む意味では自分のやりやすい方法を選択するのがベスト。よほど変則的なことをしなければ、自身が良いと思うもので大丈夫です」

自己ベストに必要な当日対策を、3つの観点でアドバイス

さらに、レース当日の準備や対策も自己ベスト更新には不可欠。杉山さんは「水分補給」「寒さ対策」「シューズ」の観点で、それぞれメンバーにアドバイスしました。

■水分補給

「体内の水分不足はレース中の差し込みにもつながるので、念入りに水分を補給しましょう。経口補水液など、浸透圧の高いものを前日から摂るのが望ましいですね。また、水分を補給してもすぐ尿で出てしまうことがあるので、食べ物も水分を多く含んだ食品、たとえば白米などを意識的に摂ってください。飲み物に比べて消化に時間がかかる分、体内に水分がとどまる時間が長くなります」

■寒さ対策

「今回の大会では、朝のスタート時点で気温2℃ほどの寒さになると思います。ただし、昼に差しかかると日差しが強くなり、体感10℃ほどにまで上がる可能性も。こういった気温差の発生は、冬のマラソン大会に多いですよね。
当日はホットジェルなどを使い、寒さ対策は入念に。なお、途中からの暑さにも対応できるよう、カイロなら貼るタイプではなく手持ちにするなど、いつでも手放せるものにしましょう」
この寒暖差は、レース中の水分補給でも重要。気温が低いからと前半で水分補給を控えると、暑くなった後半で一気に体が乾いてしまう可能性も。杉山さんは「前半からしっかりドリンクを飲みましょう」と伝えます。

■シューズ

「今回のコースは路面が硬いため、カーボン入りシューズの中でも高反発なものは足の負担が大きくなる可能性も。皆さんはDELTA PRO RACEで挑みますが、この靴はクッション性があり、負担軽減の意味で良いはず。今回の路面に合うと思いますよ」

路面が硬い分、靴下も厚いものを履いたり、テーピングで固めたりするのが効果的のようです。

こういったポイントは、冬のマラソン大会共通で考えるべき項目かもしれません。

4ヶ月のトレーニングを経て、いよいよ最終章へ

9月からスタートした4人のチャレンジ。舞台となる年末の大会へ向けて、改めて各メンバーが意気込みを口にします。

「ここからは無理せずコンディション第一で、お酒も飲まないようにしたいですね(笑)。タイムよりも、自分がどう感じるかを大切にして走りたいと思います」(西川さん)

「直前にドタバタしても結果は出ないので、入念に調整します。本番は目標ペースで出来るところまで走ってみて、いい展開に持ち込みたいですね」(清水さん)

「プロジェクトのおかげで久々に真剣に走り込みました。まずはそのことに感謝したいですし、あとは自分の思い描くプランで走って、笑顔でゴールできれば」(阪本さん)

「やるべきことはやったので、これからはメンタルと体調を整えるのが重要。そこに集中して本番まで穏やかに過ごします」(松下さん)

4人をサポートしてきたRSLABの杉山さんと林さんは、これまで科学的トレーニングをメンバーに提示してきました。そして、全員がそれをしっかり吸収したからこそ、最後は科学を超えて「気持ちがすべて」と口を揃えます。今までやってきたことを信じて、強い気持ちでスタートを切れるか。そこにかかっていると言えるでしょう。

プロジェクトはいよいよ最終章へ。この4ヶ月のトレーニングと思い出を胸に、メンバーはレースに挑みます。一体どんな走りを見せるのか、次回その結果をレポートします。

文/有井太郎
撮影/関健作

DELTA RUNNING CREW

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