2025.10.07
バッグデザイナー松村力弥さんに聞く、MADE IN JAPANへの思いと、細部への徹底した追求について。
国内大手バッグメーカーにて、10年以上にわたり商品デザインや生地開発に携わってきた松村力弥さん。2018年に独立後、デサントのデザイナーのひとりとして、主にMADE IN JAPANの商品を手掛けています。
「僕のものづくりのベースには、機能美があります。信頼がおけるスペックなのか、きちんとこだわりをもって作られているのか。商品になるまでの背景をひとつずつ慎重に検討をしていく。なので、オルテラインの“Form Follows Function” (すべてに理由があり、機能をともなったデザインである)というコンセプトには心から共感していますし、僕もそういうものづくりしかしてこなかった自負があります。」
機能性を高め、不要なものは極限まで取り除く。そうして完成に至ったデザインには、誰がデザインしたのかわからない「匿名性」が生まれます。
「僕は商品を見ただけで、誰がデザインしたものなのかわかるような個性やシグネチャーは、必要ないと思っていて。特にデサントのものづくりでは、デサントというブランドがあれば、もうそれだけで十分。商品を通して、ブランドの精神を伝えられることが重要です」
豊岡には規模、手法、得意とする分野もさまざまな作り手が集い、分業しながらひとつのプロダクトを構築する伝統があり、鞄の生産量は日本一を誇ります。国内のさまざまなメーカー、工場、職人と協業を重ね、MADE IN JAPANの特性を熟知してきた松村さん。全ての工程を一貫して請け負う工場のスピーディーさに一目置きながらも、裁断、縫製、ファスナー付け、さらには、テープ端の処理のみなど、一部の工程に特化したプロフェッショナルたちが集うこの街との関係性を大事にしてきました。
「MADE IN JAPANのよさを一言で表現するのは難しいのですが、作り手の皆さん同士の繋がりや今まで築いてきた関係性の深さがものづくりの結果に直結するところかもしれません。」
「あとはこれがだめなら、これをやってみようという感じで、新しい挑戦に対してフレキシブルに対応してもらえることも大きいです。カバンをもつ理由は、ものを持ち運ぶことが大前提。そこをクリアするために、ウェアの素材をどう補強、加工して、カバンにするか。常に検証して、アップデートできる。これはMADE IN JAPANの強みです」
「たとえば、ミリタリー生地の商品を作りたいと決まった場合、古着などでサンプル資料があれば、それをメーカーさんや工場さんに持参して、『こういう生地は今でもありますか?』と聞くことからはじまります。そこで、どうしても譲れない部分が出ると、『同じものは当時の織り機でしか作れないけれど、再現するためにどうしようか?』と職人さんたちと知恵を絞るのですが、その情熱や一体感がMADE IN JAPANだからできることだと思っています」
普段使いしやすいバッグを作りたくてデザインしたスリングバッグは、付属のベルトを使えば3点留めができて、左右どちらの肩にもかけられるように設計しています。しっかり固定できるので、自転車に乗るときにもぴったりです。
「表地には、オルテラインのイメージに合わせて、光沢のある細い糸で高密に織られた素材を選びました。中に芯材を入れ、裏地も含めて一緒に縫うことでカバンの形に整えています。
底地は目がしっかりしていて摩擦に強いCORDURA(R)生地を使っています。スリングバッグに関しては、床に置くことはほとんどないと思うのですが、肩にかけるためにぐるっとまわす際、何かに当たっても耐えられるように、という考えからです。
メインルームには止水ファスナーを使っているのですが、小物ポケットはサッと開閉できることを優先して、止水ファスナーよりも動きがなめらかな撥水ファスナーにしています。
内側のバインダーと呼ばれる全体をまとめる最終工程の仕上がりによって、カバンの表情が決まるので、ここに関しては特に工場さんにお願いをして丁寧に仕上げてもらいました。長く使っていただけるようにかんぬき止めという補強のステッチも施しています。
制作にあたっての個人的な思いですが、このカバンはスキーをするときにすごく便利だなって。耐水生地で、サイズも程よいですし。僕もスキーをするのですが、持ち歩きたいのは飲み物とスマホくらいで、バックパックが必要なほどではないんですよ。デサントは創業初期の1950年代にスキーウェアの開発に着手している歴史がありますし、僕のなかでも矛盾がありません。」
ビジネスでの出張シーンを想定して、背面のポケット底のファスナーを開けることで、キャリーケースに取り付けられる仕様にしました。また、水沢ダウンの着用時も腕が通りやすいよう、ハンドルの位置を1本分ほど広く設計しています。
「一般的なトートバッグとの大きな違いは、表側の上部のはぎ(縫い目)をなくしたことです。こうすることで強度は変わらないまま、シャープでミニマルな印象が前面に出ますし、デサントとの親和性も高まると思いました。縫い目が1本入るか入らないかで型紙自体も大きく変わるんです。
上部のファスナーは、ウェアのポケットにも使われているホットメルトと呼ばれるもので、熱で圧着して取り付けています。そうすることでファスナーを縫い付ける必要がなくなる。つまり、ステッチが入らないことで、防水性を高めることができるんです。
背面のポケット下に付けたファスナーは、キャリーケースのハンドルのサイズに合わせて幅を調整できるように、ロックがかかるセミオートロックスライダーを使いました。底面はスリングバッグと同じCORDURA(R)生地で仕上げています」
「本体にはダブルラッセルメッシュ素材を、蓋部分にはナイロン生地を使っています。ホテルの部屋で置き場に困る鍵や時計などを置いておけるトレー代わりになるポーチがほしくてデザインしました。蓋部分を下げると自立するのでトレーとして、食事に出るときには巾着にして持ち歩ける2WAY仕様です」
ものづくりの町、東京都江東区に生まれる。文化服装学院卒業後、ロンドンに留学。そこで出会った吉田カバンのプロダクトに感銘を受け、帰国後12年間デザイナーとして数々の製品を手がける。独立後、DESCENTEのバッグデザインを担当する傍ら、自身のブランドtexnhをスタート。